第13回 上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎 -工事現場の交通整理とテニス肘-

先日、40代の男性の患者さんで肘が痛いという方がいました。調べてみると上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)です。つまりテニス肘です。どうもテニスをするタイプには見えなかったのですが、「テニスをするのですか」と聞くと「しない」という返事です。仕事は何かときくと工事現場の交通整理で、あの赤い棒(フリッカーとも言うようです)を振っているのだそうです。そういえば赤棒振りもテニスのバックハンドと同じ負担が肘にかかります。
ご存知のようにテニス肘は上腕骨外側上顆炎といい肘の外側が痛みます。テニスのバックハンドで手首を反らせる運動を繰り返すことが原因です。肘の内側が痛む上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん)は一般的にゴルフ肘といいますが、テニスのフォアハンドでも起こります。原因はここで述べたように手首の負担ですが、もう一つ隠れた原因があります。それは加齢です。
テニス肘の罹患率を調べると大学生テニス選手では8%ですが、30代テニス選手では33%、40代で69%と年齢とともにどんどん増加します。またテニス肘の発症年齢の平均は36.7歳です。これから分かるように加齢で肘の伸筋腱が硬くなり、そこに負担がかかると伸筋腱の部分断裂や炎症が起こると考えられます。加齢に伴って身体全体も固くなります。テニスのバックハンドでは身体が固いと回転できないのでその分手首を反らすことで補ってい、ゴルフも身体の回転が足りない分手首を屈曲することで補うのです。
上腕骨外側上顆炎になってしまったら、まず安静が原則です。動かさないで消炎鎮痛剤や湿布で炎症を抑えます。痛みが治まってきたら、手首を屈曲してひじを伸ばすストレッチ(イラスト)をしてみてください。これで徐々に痛みがなくなってくるはずです。痛みがなくなったらラケットを振ってみて途中で寸止めしてみましょう。それでも痛くなければテニスに復帰できます。
これまでには思ったより時間がかかります。1-3か月位かかると思ってください。上腕骨外側上顆炎や内側上顆炎の予防は手を屈曲して伸ばすストレッチングだけでなく全身の柔軟性を高めることが大切です。身体を柔らかくするストレッチを十分に行ってください。特に37歳以上には必須ですよ。
鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太
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執筆 鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太