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鶴巻温泉病院 〒257-0001 神奈川県秦野市鶴巻北1-16-1 TEL 0463(78)1311

高血圧性脳出血

脳神経外科専門医の病院長 鈴木 龍太 が「脳の病気」についてわかりやすく解説しました。

執筆 鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太

高血圧性脳出血 部位と症状

 日本では1965年から脳卒中による死亡率が減少していますが、その大きな原因は高血圧性脳出血死亡率が劇的に低下したことです。これは高血圧の治療や食塩を減らした食生活の変化によるものです。しかし日本では脳出血の発症率は諸外国の2-3倍と依然として高く、注意が必要です(脳卒中治療ガイドライン2015)。


 高血圧性脳出血には決まった発症部位があります。被殻出血視床出血小脳出血橋出血皮質下出血です。

CTによる診断
高血圧性脳出血の起こる場所

被殻出血

 高血圧性脳出血の中で60%以上を占め、一番頻度の高いものです。
 脳出血脳梗塞と違い頭痛、嘔吐が先行することが多いです。頭痛があり、崩れるように倒れ、手と足が動かない場合は脳出血の可能性が高くなります。

被殻出血

 出血と反対側の手足が麻痺し、感覚も障害されます。被殻のみの小さな出血では本来麻痺は起こりません。殆どの場合被殻から少し外側にある内包へ出血し、その部分の障害で運動麻痺と感覚障害がでます。出血が大きいと、顔と両目が出血した側(手足の麻痺が左なら右側)へ向いて自分では治せない状態になり、意識障害が進んできます。右利きの人は言葉を理解してしゃべる機能が左の脳にありますから、左の脳出血が起こると、利き手の右手の麻痺だけでなく言語障害(失語)が起こり、言葉がしゃべれなくなることがあります。


被殻出血による症状

 脳出血は発症1-6時間で出血が止まります。ですから6時間以上経っても意識障害がなく症状が軽い例では手術はせずにそのまま様子をみます。血圧が高い人が多いですから血圧を下げる薬を使い、脳の腫れ(脳浮腫)を軽くする薬(グリセオール)を点滴します。発症してすぐに病院へ行った場合、症状が軽くてもまだ出血が止まっていない場合がありますから、3-4時間後にもう一度CTを行って大きくなっていないか確認します。


 被殻出血では血腫の量が少ない場合は保存的に様子を見ます。30ml以上で意識が半昏睡状態(刺激で目は開けないが身体を動かす)のものが急性期の手術の適応があります。手術は頭蓋骨を開ける開頭手術と、小さな穴から血腫を吸引する定位脳手術的血腫吸引術とがありますが、2015年のガイドラインでは意識障害がある場合は定位脳手術的血腫吸引術が良いとされています。しかし手術適応と手術法は患者さんの年齢や合併症、家族や本人の意思などを考慮して、その場の状況で判断するということになります。脳出血の治療で悩むのは高齢者や非常に重症例、危篤状態の例です。危篤状態の例は手術でしか救命できません。しかし重症であればあるほど、術後の状態も悪く、必ずしも救命できるわけではありませんし、遷延性意識障害といって目は開けているけど外界とのコミュニケーションが全く取れない状態や、寝たきりの状態になることが殆どです。 ガイドラインでも重症例の手術は薦めていません。

手術による治療
重症例

 被殻出血の場合は手術しても麻痺は残ります。意識障害の改善や早期回復を目的とした手術ですので誤解しないようにして下さい。
 麻痺の回復には回復期リハビリテーション病院(病棟)へ移って集中したリハビリをすることが大切です。被殻出血で意識がしっかりしている例では70%以上の人が下肢装具を付け、杖や歩行器を使用する場合もありますが、歩行が自立できます。

リハビリテーション

視床出血

 高齢者に多い出血です。運動麻痺も起こりますが、感覚障害が強く出ます。また視床出血では左右の目の位置がおかしくなります、寄り目になったり、両目が下に向いて動かなくなったりします。左側の視床出血では言葉もしゃべれなくなることがあります。高齢者に多い病気で、寝たきりの原因となり、認知症にもなり易い病気です。


 慢性期になって出血と反対側の手や足が非常に痛くなる場合があります。これは視床痛といい、鎮痛薬が効きません。この場合定位脳手術といって特殊な手術を行う場合があります。視床出血に対しては開頭手術はしません。脳室の中に出血が多かったり、水頭症を来した場合に髄液を外へ出す手術をします。血腫が大きければ血腫吸引術を行うことがあります。

脳室外誘導
視床出血

小脳出血

 突発する頭痛、嘔吐、めまいが起こり、立ち上がるとふらふらして歩けません。小脳出血のめまいは非常に強いもので、ずっと続きます。最初のうちは意識障害はありませんが徐々に意識障害が起こり、呼吸状態が悪くなってきます。小脳出血の場合は早いうちに手術すると改善しますから、呼吸障害がひどくならないうちに手術することが必要です。小脳出血は進行が急で、水頭症を起こすこともあり、手術で症状をかなり改善できますからある程度の大きさの出血であればすぐに手術をします。

小脳出血

橋出血

 大脳、小脳の神経線維が集まって、脊髄へ向かいますが、その間にある神経線維の集中した部分が脳幹です。脳幹は中脳、橋、延髄と呼ばれる部分があります。脳幹の中で高血圧性出血が最も起きやすい部位が橋です。橋出血では他の脳出血と違い両手両足の麻痺がおこることが特徴です。


 重症例が多く出血の最初から意識障害、呼吸障害、四肢麻痺(両手足が動かなくなる)、嚥下障害が起こります。目も固定し、上下にずれたりして見るからに異常です。また瞳孔(黒目の真中)が非常に小さくなります。瞳孔の大きさは脳の病気の時には非常に重要で、意識障害で、瞳孔が5mm以上に開き、光を入れても縮まない場合は危篤状態です。比較的若い男性で、高血圧、高脂血症、肥満、酒飲みに多く、死亡率が高いものです。手術的治療はできません。橋出血は以前はすべて重症と考えられていましたが、症状が軽いものでCTやMRIでみると小さな橋出血が見つかる場合が増えてきました。

橋出血

皮質下出血

 脳葉出血ともいいますが、高血圧と言うよりも、若い人ではAVMの出血、高齢者ではアミロイド血管症を考えます。症状は出血した場所により、片麻痺や視野障害、言語障害などがでますが、頭痛は殆どの症例で起こります。脳葉出血は前述のように若い人ではAVMの可能性もありますから、血管撮影を行い、出血の原因となる病気があるかどうか確認します。出血が大きい場合はすぐに開頭手術を行いますが、この場合は片麻痺などの症状を改善することができます。

回復期リハビリテーション

 脳出血では片麻痺等の脳出血特有の症状は保存的治療でも外科的治療でも残ります。ですからリハビリテーションが最も大切です。早めに回復期リハビリテーション病院(病棟)へ移ることが大切です。治療した病院が救急病院だったり、大きな病院だったりすると、回復期リハ病院へ移ることをためらったりする方もいると思います。しかし、リハビリの開始が遅くなればなるほど回復が遅れ、自宅へ帰るチャンスを逃します。

fim利得

 リハビリテーションは発症早期から必要です。特に、長く寝ていると手や足が固くなってしまう拘縮が起こりますので、足関節、膝、股関節、方、肘、手指の関節を動かします。また手にはタオルを巻いたものを握らせます。ベッドで寝ている時の手や足の位置も大切です。


 このようなリハビリは家庭に帰っても必要になりますから入院中に家族の方も覚えておくと良いです。被殻出血の患者さんで意識障害のでなかった方はリハビリテーションをすることで手の細かい動作はなかなかできませんが、70%ぐらいの方が自力もしくは杖歩行が可能になります。家では歩き、外へ出る時は車椅子というレベルの人もいます。時間はかかりますが、希望を持って焦らずリハビリテーションに取り組んで下さい。脳出血の人は一時うつ状態になって落ち込みますが、段々自分の現実を受け止めるようになります。家族の方も焦らずに見守っていてあげることが大切です。

脳の病気

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